2019.9.29「預言者ハガイの激励 ハガイ書2:1-9」

ハガイ書2章1-9節 (聖書引用:新改訳2017)

2:1
第七の月の二十一日に、預言者ハガイを通して、次のような主のことばがあった。
2:2
「シェアルティエルの子、ユダの総督ゼルバベルと、エホツァダクの子、大祭司ヨシュアと、民の残りの者に次のように言え。
2:3
『あなたがたの中で、かつての栄光に輝くこの宮を見たことがある、生き残りの者はだれか。あなたがたは今、これをどう見ているのか。あなたがたの目には、まるで無いに等しいのではないか。
2:4
しかし今、ゼルバベルよ、強くあれ。──主のことば──エホツァダクの子、大祭司ヨシュアよ、強くあれ。この国のすべての民よ、強くあれ。──主のことば──仕事に取りかかれ。わたしがあなたがたとともにいるからだ。──万軍の主のことば──
2:5
あなたがたがエジプトから出て来たとき、わたしがあなたがたと結んだ約束により、わたしの霊はあなたがたの間にとどまっている。恐れるな。』
2:6
まことに、万軍の主はこう言われる。『間もなく、もう一度、わたしは天と地、海と陸を揺り動かす。
2:7
わたしはすべての国々を揺り動かす。すべての国々の宝物がもたらされ、わたしはこの宮を栄光で満たす。──万軍の主は言われる──
2:8
銀はわたしのもの。金もわたしのもの。──万軍の主のことば──
2:9
この宮のこれから後の栄光は、先のものにまさる。──万軍の主は言われる──この場所にわたしは平和を与える。──万軍の主のことば。』」
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昨年から12の小預言書を順番に語らせていただいています。
「ホセア書」「ヨエル書」「アモス書」「オバデヤ書」「ヨナ書」「ミカ書」「ナホム書」「ハバクク書」「ゼパニヤ書」と続きました。今日は10番目の預言書、「ハガイ書」の一書説教です。

「ハガイ書」に登場する預言者ハガイ、そして、「ハガイ書」の次の「ゼカリヤ書」に登場する預言者ゼカリヤは、旧約聖書では「エズラ記」「ネヘミヤ記」の時代に活躍した預言者として知られています。

「ハガイ書」は、2章で構成される短い預言書です。
内容をひと言で表すと、「エルサレム神殿再建のために民たちを励ます」というものです。

ソロモンが建てたエルサレム神殿は、新バビロニア帝国のネブカデネザル王によって壊されてしまいました。その神殿をエルサレムに帰還した南ユダの民たちが再建しようとします。
しかしこれがなかなかうまくいきません。
すっかり失望落胆してしまって諦めかけていた民たちを、主がハガイを通して励ましてくださっています。

 

◆預言者ハガイの激励
①ユダヤ人の失望と落胆に対する主の激励

 

どのような状況でハガイが遣わされたかを知るために、まずイスラエルの王制が始まった頃からの歴史を振り返ってみましょう。

B.C.1020年頃~統一王国: サウル王、ダビデ王、ソロモン王が統治
B.C.930年頃 分裂王国: 北イスラエル王国と、南ユダ王国に分裂
B.C.722年 北イスラエル王国滅亡: アッシリアに捕囚。
B.C.586年 南ユダ王国滅亡: バビロン王ネブカデネザルによってバビロン捕囚、エルサレム神殿破壊。

B.C.539年 新バビロニア王国が、ペルシャ帝国によって滅ぼされる。

翌年B.C.538年、ペルシャ帝国のクロス王(キュロス王)の勅令によって、南ユダの民たち(ユダ族とベニヤミン族)はエルサレムに帰還することが許されました。
捕囚時代からは、南ユダの民たちはユダヤ人と呼ばれるようになりました。

ここで注目したいのは、クロス王の勅令は、ただエルサレム帰還を許可しただけではなく、エルサレム神殿を再建せよと命じたものでした。そしてそれに対する援助を与えることも約束し、バビロンに捕囚された時に、ネブカデネザルによって奪われた、神殿の財宝も返してくれました。

エズラ記によると、これは預言者エレミヤに主が語られたことばを実現するために、主がペルシャのクロス王の霊を奮い立たされたからであると書かれています。
エレミヤは、南ユダの民が70年間捕囚された後、帰還することを預言していました。それが実現したのです。そしてエルサレム神殿の再建についても、主がクロス王を通して命じられたことだということがわかります。

しかし民たちの中には、70年に渡る異国での生活が定着し、帰還が許されてもエルサレムに戻りたくないと考えている人も多くいました。

そこで主は、クロス王だけではなく、捕囚された民たちの霊も奮い立たせました。
この時主によって霊を奮い立たされてエルサレムに帰還した者は、総督ゼルバベルを指導者とする、5万人のユダヤ人たちでした。(エズラ2:64‐65)

神殿再建は、まず神殿の基礎の工事から始まりました。
2年後、B.C.536年には神殿の基礎(礎)が完成しました。
建築師たちが主の神殿の礎を据えたとき、民たちは主を賛美して、大声で喜び叫びました。
また、以前の豪華なソロモンの神殿を見たことのある老人たちは、あまりの違いに大声をあげて泣いたという様子がエズラ記3章8‐13節に書かれています。

しかしその後、神殿の再建はB.C.520年まで16年ほどストップしてしまいます。
なぜストップしてしまったのでしょうか。様々な出来事があり、ユダヤ人たちの熱意がそがれたからです。

①神殿再建によって、ユダヤ人の国家が再興することを恐れたサマリヤ人や周辺民族が妨害し続けました。
②B.C.530年にクロス王が戦死し、ユダヤ人の帰還が中止されました。
③クロス王の息子カンビュセス王の時代は、エジプト制圧のためにペルシャ軍がユダヤ人の住むパレスチナを通過するため、ユダヤ人の生活を圧迫して貧しくしました。

ユダヤ人たちは失望、落胆し、すっかり神殿再建をあきらめてしまっていました。
そして、そのような状態の時に主が遣わした預言者が、ハガイとゼカリヤでした。

ハガイの預言は、B.C.520年の8月から12月にかけて4回あり、内容は神殿再建に関することだけです。
他の預言書のように、偶像崇拝や社会的不正、道徳的退廃への非難の言葉は見受けられません。

最初の預言は、1:1に書かれている、「ダレイオス(ダリヨス)王の第二年、第六の月の一日」に語られました。
これはバビロン方式の数え方らしく、B.C.520年8月29日のことだそうです。
ハガイを通して主は、神殿再建が成されないのは、敵のせいではなく、ユダヤ人たちの無気力と怠慢にあると語られました。

<ハガイ1:3-6>
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1:3
すると預言者ハガイを通して、次のような主のことばがあった。
1:4
「この宮が廃墟となっているのに、あなたがただけが板張りの家に住む時だろうか。」
1:5
今、万軍の主はこう言われる。「あなたがたの歩みをよく考えよ。
1:6
多くの種を蒔いても収穫はわずか。食べても満ち足りることがなく、飲んでも酔うことがなく、衣を着ても温まることがない。金を稼ぐ者が稼いでも、穴の開いた袋に入れるだけ。」
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このような苦しい状況になったのは、民たちが神殿再建よりも自分自身の生活を優先させたからです。
この困窮状態は、実は神自身がもたらしたものであり、神の警告であったことが、9-11節で語られています。

このことは、私たちの信仰生活にも当てはまることがあるのではないでしょうか。
努力をしているのに、いっこうに報われない。実にならない。衣食住はあっても満ち足りることはない。
ストレスを溜めつつも休みなく働いているのに、一向に豊かにならない。ザルのような出費。

このような負のスパイラルに陥っているとしたら、それは神様からの警告なのかもしれません。
帰還したユダヤ人たちのように、神様を信頼せず、自分自身の生活を優先させているから、このような結果になるのかもしれません。

5節の「あなたがたの歩みをよく考えよ。」は新改訳2017の訳ですが、以前の訳では、「あなたがたの現状をよく考えよ。」と訳されています。私たちも、自分自身の歩みや現状をよく考えてみましょう。

ハガイ書に戻ります。主は、無気力で、失望、落胆の中にあるユダヤ人たちを、激励してくださいました。

<ハガイ1:7-8>
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1:7
万軍の主はこう言われる。「あなたがたの歩みをよく考えよ。
1:8
山に登り、木を運んで来て、宮を建てよ。そうすれば、わたしはそれを喜び、栄光を現す。
──主は言われる──
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この1:8は、ハガイ書の主題となる御言葉です。
主は、「呪い」が「祝福」に変わることを約束してくださっています。

指導者だったゼルバベルやヨシュアは、ハガイたちの預言を聞いて、民とともに再び奮い立ちました。
ハガイの預言があった、B.C.520年ダリヨス王の治世第2年に、漸く神殿工事を再開できたようです。

 

◆預言者ハガイの激励
②強くあれ、恐れるな、仕事にとりかかれ

 

2章の始め、日付は「第七の月の二十一日」、B.C.520年10月17日にあたります。
この時ハガイを通して主はこのように語られました。

<ハガイ2:2-3>
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2:2
「シェアルティエルの子、ユダの総督ゼルバベルと、エホツァダクの子、大祭司ヨシュアと、民の残りの者に次のように言え。
2:3
『あなたがたの中で、かつての栄光に輝くこの宮を見たことがある、生き残りの者はだれか。あなたがたは今、これをどう見ているのか。あなたがたの目には、まるで無いに等しいのではないか。
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3節の「かつての栄光に輝くこの宮」とは、ソロモン王が建てた豪華な第一神殿のことです。
その宮を見たことがある生き残りの者に対して、これから再建する第二神殿は、「まるで無いに等しいのではないか」と主は語られています。

確かに、最初に工事した神殿の礎(基礎)だけを見ても、以前の宮に比べればかなり見劣りしたでしょう。
そしてそれは外観だけではなく、神殿の中身も違っていました。ソロモンが建てた第一神殿には存在したものが、第二神殿建設の時には5つ失われていたと言われています。

①神の箱とケルビム
神の箱(契約の箱)には、モーセの十戒が書かれた石板、芽を出したアロンの杖、マナの入った金の壺などが入っていました。箱の上では、栄光のケルビムが「宥めの蓋」をおおっていました。(ヘブル9:5-6)
②ウリムとトンミム
神の啓示を知るために大祭司が胸当てに入れて使ったもの。
③シェキナー(神の臨在を表すことば)
④聖なる火
⑤預言の霊

えーーー。神の契約の箱をはじめ、こんなに大切なものの数々が捕囚によって失われてしまったのかぁー。
・・・と、かなりびっくりしますね・・・。
神の至聖所にあったものも含め、霊的に重要だと思われるものがないにも関わらず、主は、神殿再建を強く命じられました。そして、ゼルバベルたちをこのように激励しました。

<ハガイ2:4-5>
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2:4
しかし今、ゼルバベルよ、強くあれ。──主のことば──エホツァダクの子、大祭司ヨシュアよ、強くあれ。この国のすべての民よ、強くあれ。──主のことば──仕事に取りかかれ。わたしがあなたがたとともにいるからだ。──万軍の主のことば──
2:5
あなたがたがエジプトから出て来たとき、わたしがあなたがたと結んだ約束により、わたしの霊はあなたがたの間にとどまっている。恐れるな。』
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彼らは様々な「恐れ」のゆえに、工事を中断していました。
主はゼルバベルたちに、これから建てる神殿は、ソロモンの神殿に比べて、無いに等しいように見える神殿であると認識させつつも、「強くあれ、恐れるな、仕事に取りかかれ、わたしがあなたがたとともにいる」と、激励しています。

なぜ主は、無いに等しいように見える神殿を建てさせるのでしょうか。
はっきりと答えられるわけではありませんが、聖書を読んでいて、よく感じることがあります。
それは、「神様には、壮大で、完全な、特別な、ご計画がある」ということです。
そのご計画は、私たち人間には計り知れないものですが、そのご計画の完成のために、主が私たちに与えておられる仕事というものがあるのではないでしょうか。

ゼルバベルたちの仕事は、神殿再建でした。彼らはついにB.C.515年に神殿を完成させました。
ちなみにゼルバベルたちが建てた第二神殿は、後にイエス様がこの地にお生まれになる時に、イエス様を殺そうとしたヘロデ大王が増改築しましたが、紀元70年にローマによって破壊されました。

そして、<ハガイ2:9>
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この宮のこれから後の栄光は、先のものにまさる。──万軍の主は言われる──この場所にわたしは平和を与える。──万軍の主のことば。』」
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この言葉から、神の宮には、「先のもの(第一神殿)」「この宮(第二神殿)」「これから後の栄光(未来の神殿)」と、連続性があることがわかります。

「これから後の栄光」と言われる未来の神殿は、黙示録21章22節に、「私は、この都の中に神殿を見なかった。全能の神である主と子羊が、都の神殿だからである。」と書かれているように、イエス様が再臨された時に明らかになる神殿です。

そして、「この場所に、わたしは平和を与える。」とハガイを通して主は語られます。
未来の神殿は、神の臨在と栄光の場所であり、神を礼拝する神聖な場所であり、平和な場所です。

現代に生きる私たちには、目に見える神殿はありません。
しかしヨハネの福音書2章21節には、イエス様ご自身が神殿であるということが語られています。
イエス様ご自身が神殿なので、イエス様を心から賛美し、真の礼拝を捧げるならば、そこが神の臨在と栄光と平和の場所となるのではないでしょうか。「真の礼拝を捧げる」・・・それが、私たちの仕事です。

主がハガイを通してゼルバベルたちを激励した、「強くあれ、恐れるな、仕事にとりかかれ」の言葉を、現代の私たちへの励ましとして当てはめるなら、「強くあれ、恐れるな、真の礼拝を主に捧げよ」というメッセージとなるのではないでしょうか。

そこには、「2:4 わたしがあなたがたとともにいるからだ。」と勇気づけてくださる愛の主がおられます。
私たちは365日、主の臨在と栄光の中にいて、主を愛し、礼拝し、主とともに歩んでいきたいですね。

 

◆預言者ハガイの激励
③ゼルバベルへの約束と将来の希望

 

最後にハガイが語った日付は、B.C.520年12月18日です。神殿再建に着工した4ヶ月後です。
神殿はこの後、B.C.515年に完成しましたが、ハガイは着工してすぐに、この宮は完成しても完全な宮とはならないことを示唆しています。
先ほども語りましたが、神の宮には、連続性があります。
それは、イエス様が再臨された時に完成される、未来の神殿へと続く道です。
その道を担う、栄誉ある血筋にゼルバベルは選ばれました。

<ハガイ2:23>
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その日、──万軍の主のことば──シェアルティエルの子、わたしのしもべゼルバベルよ、──主のことば──わたしはあなたを選んで印章とする。わたしがあなたを選んだからだ。──万軍の主のことば。
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「しもべ」という呼び方は、イザヤが好んで使いましたが、メシヤ(救世主)を表します。
ゼルバベルはユダ族の出身で、ダビデの子孫です。
ハガイは、そのゼルバベルの家系から、メシヤが生まれることを預言しています。
マタイの福音書の冒頭の、アブラハムからイエス様までの系図には、ゼルバベルの名前がしっかり記載されています。これはゼルバベルにとって大きな励ましとなったことでしょう。

<マタイ1:12、13、16>
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1:12
バビロン捕囚の後、エコンヤがシェアルティエルを生み、シェアルティエルがゼルバベルを生み、
1:13
ゼルバベルがアビウデを生み、アビウデがエルヤキムを生み、エルヤキムがアゾルを生み、
~~~~~~~
1:16
ヤコブがマリアの夫ヨセフを生んだ。キリストと呼ばれるイエスは、このマリアからお生まれになった。
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主はハガイ書の神殿再建の預言を通して、ゼルバベルや民たちの霊を奮い立たせました。
神殿建設は、単に目に見える建物を建てることではなく、目に見えない信仰を試されるものでした。

私たちが、神に信頼を置いて神中心の歩みを続けようとするとき、様々な不安や恐れが生じます。
私たちは目に見えるものに惑わされてしまう、本当に弱い存在です。
ですから、主への全き信仰をもつためには、主によって奮い立たせていただかなければなりません。

マタイの6章33節、『まず神の国と神の義を求めなさい。そうすれば、これらのものはすべて、それに加えて与えられます。』この御言葉の実践です。

私たちは、あれこれ心配する前に、いつの時も主の臨在の中にいることができるように祈り続けましょう。
殺伐とした世の中で暮らしていても、主の臨在の中にいるときは、恐れは消え去り、心の中が愛と喜びと感謝で満たされます。
そうすれば、目の前にいる大切な人たちの祝福も、優しくあたたかい気持ちで共に祈っていけるのではないでしょうか。今日もお互いの祝福を祈りつつ、未来の神殿へと続く主の道を歩みましょう。